夢は遠く───

3点差。6回裏二死満塁。佐藤将太の打球は鋭くセンター方向へ飛んだ。
「超えろ!!」
思わず私は叫んだ。
打球はセンターの左を抜けてフェンスまで達する。
走る。走る。
サードランナー、セカンドランナー、ファーストランナーまでが帰り、
走者一掃の三塁打となり、6対6の同点に。
ああ、今回こそは、今年こそは、100年目にして甲子園の神様が東北に優勝旗を渡そうとしてくれている。
その瞬間、私はそう確信した。
 
しかし───。
どこまで神様は悪戯好きなのだろう。
悪夢のような9回表の小笠原君の初球ホームラン。
あの1球には佐藤投手のほんのちょっとした気の緩みが見えた。
カメラに映し出された育英ナインが下を向いた。
この時点で勝負は決まったと思った。
緊張の糸がプツンと音を立てて切れた。
その流れに乗った東海大相模は、さらに3点を追加する。
結果、10対6で仙台育英は敗れた。
 
26年前の仙台育英対帝京の延長戦。大越君の試合後の大粒の涙。
44年前の磐木高校対桐蔭学園小さな大投手と呼ばれた田村君がそれまで3連続完封しながら、決勝戦で初めて許した僅か1点で負けた試合。
46年前の三沢高校松山商業。延長18回引き分け翌日再試合。
今回の8回までの同点劇。
もう一歩、あと一歩のところで、掴みかけた深紅の優勝旗に手が届かない。
東北の人たちの夢は、どこまでも遠い。


それでも、これだけの好勝負を見せてくれた仙台育英の選手たちには感謝。
ありがとう、これからの君たちの人生に幸多かれと祈りつつ───。


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