天使が通り過ぎる時。故丸谷才一氏のエッセイ。と、その裏話。

出張で東北の某都市に来ているため、新しいことが書けないでいます。

ブログというのは、基本的に日記であり、なるべく間を空けずに書き続けることが大事なので、昔書いたレビューを掲載せていただきます。

2012年3月27日に発表した丸谷才一氏のエッセイ「猫のつもりが虎」のレビュー。
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小説ばかり読み続けていると「はて、この前は何を読んだのだっけ?」と分からなくなることがたまにある。

小説は物語世界に自分が入りこんで読むので、前の作品を読み終え、次の作品世界に入るとき、今は高校生なのに、さっきまでは刑事だった、というような人格崩壊が起きてしまい、ストーリーさえ忘れてしまうときがままある。なので、読み終えたら早めにレビューを書くか、要点だけでも書き留めておかないと、レビューさえ書けなくなる。
年をとったせいもあるのだろうが。

やはり、合間に毛色の違う読み物を挟んでから、別の小説に取り掛かるほうが楽なようだ。
そんなわけで、数十年振りに、高校時代によく読んでいた丸谷才一氏のエッセイを読むことにした(図書館の文庫コーナーでたまたま目に留まったので)。

丸谷氏のエッセイは、雑学というか、知的探究心を満たしてくれるものが多いので、「ふーむ、なるほど」と頷き、(これは何処かのネタで使えるな)と思いながら読める。彼のエッセイから得た知識は、若かりし頃いろいろな場面で活用させていただいた。

例えば学生時代。
女の子とデートの最中に、「会話が途切れて訪れる沈黙」=「いわゆる『天使が通り過ぎる時』というやつ。(フランス語で言うとアンジュパッセ)」が怖かったので、そんな時に「何故に英語では蒸留酒を精神と同じ『スピリッツ』っていうか知ってる?」とか、「この煙草、どうしてCOOLじゃなくてKOOLというスペルなのか分かる?」などと言って、その危機を切り抜けるのによく使った。

さて、丸谷氏が今でも現役でエッセイや書評、小説を書き続けているのはたいしたものだ。もう86歳であらせられる。
(昨年、文化勲章を受章されました。遅ればせながらおめでとうございます)

この『猫のつもりが虎』というエッセイ集は、文春文庫として2009年7月の発刊なので、けっこう最近の本である。ただ初出一覧を見たら、全て1990年から1993年に書かれたものだ。それでも面白く読める。やはりたいしたお方である。

ただし、彼なりの拘りで、相変わらずの読みにくい旧仮名遣い(「てふてふ」=「ちょうちょうの世界です)。
「かはいさうだつた。」=「かわいそうだった。などと書かれても、今の若い人たち(私とて)は読みづらくて閉口すると思うが、そこは丸谷氏の信条だから致し方ない。それでも、慣れればさほど苦にならないので、このエッセイからも面白いネタを吸収した。

「寒冷地アラスカでアイスクリームが大人気」とか、「編集者が作家から原稿を受け取るとき、必ず作家に何か言うのが決まりなのだが、相撲好きの夏目漱石にはこんな言葉を返したのでは?」とか、かなり面白い。

雑学的な知識を仕入れたい、デートで会話が弾まなくて困るという方には、丸谷才一氏のエッセイを一度読むことをお薦めします。いろいろ応用できると思いますので。
とここで書いても、これを読んでいる方々は私の年代に近い、年配の方々が多いかもしれないので、あまり役には立たないかもしれませんが(笑)。

最後に、丸谷氏にならって、天使を通せんぼ(?)するための雑学を一つ。

ナポレオンが捕まってエルバ島に流される時に言ったとされる有名な言葉があります。
エルバ島を見るまで余は有能なりき」という言葉です。
英語で言うと、
”Able was I ere I saw Elba.”  註:ere=before
言葉自体はご存知かもしれませんが、英語の文字を見て気付いたでしょうか?
「タケタガヤケタ」の英語版で、前から読んでも後ろから読んでも同じスペルなのです。
目を凝らして英語のスペルを見てください。面白いでしょう?
(これを30年以上経った今でも覚えている自分にも驚く。何度も使ったからか……)
デート中に(天使が通り過ぎそうだ、ヤバイ!!)と思った時にでも使って頂ければ本望です。 

註:「ナポレオンはフランス人なのに、何ゆえに英語で言ったんだ?」というツッコミなどはせずに。

(※このレビューを書いた年、2012年10月13日に丸谷才一氏は87歳で亡くなられました。ご冥福をお祈りいたします)

英語版“タケヤガヤケタ”にまつわる裏話:

この英語版“タケヤガヤケタ”を知った高校生の私は、「これは面白い!!」と思いました。
そこで、大学に入ってデートをした時、“天使を通せんぼ”するために使ったのです。
すると、その子が、すかさず、
「でも、ナポレオンってフランス人じゃないの? なんで英語なの?」
と鋭いツッコミをされ、そのとき初めて私は「そういや、そうだな」と気付いたのです。

でも、別の子とデートした時もめげずに使いましたが。
他の子はあまり拘らず「〇〇君って、物知りだね」と言われて有頂天になっていました。
私にすかさず素朴なツッコミをした女の子は、日本一の天才女子が集まる、天下の桜蔭高校出身だった記憶が・・・・・・。
脳天気な私などが簡単に太刀打ちできるような女子ではなかったのです(笑)。