三谷幸喜の最高傑作ミュージカル『オケピ!』
誠にあいすみません。
台原中学校に関連する話題が出てこなくて、ご容赦を。
この芝居の舞台はオーケストラ・ピット(業界用語で「オケピ」)。
本来は舞台下にあるべき世界が、舞台上で描かれるという三谷幸喜らしいひねりで、
ミュージカルの魅力をミュージカルの裏側から見るという仕組みになっています。
舞台上の「オケピ」の下では、本物の「オケピ」がオーケストラ伴奏しており、
その二重構造が不思議な雰囲気を醸し出します。
2000年版では2つのミュージカルの同時進行を表現するため、
舞台最上部にさらに舞台を設置、オーケストラ・ピットから
“BOY MEETS GIRL”の足元だけが見えているという演出で
「脚」役の演技者が数人いたが、2003年版では無くなった。
(註:ウィキペディアから、そのまま引用)
DVD化されたのは、2003年に上演された天海祐希主演のものですが、
私が最初に見たのは2000年の6月に青山こどもの城劇場で上演された
戸田恵子や、今でこそ有名俳優になりましたが、
15年前にはまだそれほど名の知れていなかった
繰り広げるシチュエーションコメディ。
一応、三谷氏の脚本はあるものの、随所でアドリブが飛び出し、
失敗、ハプニングなどが起こっても、三人はそのまま流れに沿って
勝手に演技を続けるので、話はどんどん可笑しな方向へ。
そのときの三人の身のこなし方や対応振りが絶妙で、
つい大笑いしてしまう楽しくて面白いコメディ。
これ以降ですね、彼の作品に興味を持ち、芝居も観てみたいと思ったのは。
ところが、芝居の世界ではすでに有名人。チケットを取ること自体が至難の業。
それでも何とか入手し、初めて見た彼の芝居が、この「オケピ!」。
まず驚いたのが、開演前の場内アナウンス。
三谷幸喜氏本人が開演前のアナウンスをするのです。
特にこれはミュージカルの舞台下のオーケストラを題材にした
芝居なので、観客が必ず気になって舞台の下を覗きたくなる。
開演直前にその行為を注意するアナウンスを三谷幸喜氏が行う。
(実際三谷さんは毎日自分の芝居を見て、少しずつ変えるんですね。
だから初日と千秋楽ではシナリオが微妙に異なったりします)
このアナウンスが衝撃的でした。
記憶によれば───。
「まもなく上演開始ですが、三点ほどお客様にお願いがあります。まず、トイレの方はお早めにお済ませください。開演後の入場は一切認めません。最初から観ていただかないと、この芝居の面白さが伝わりません」
このあたりで場内がざわめく。「なんか不思議なアナウンスだなあ」と。
「また、この芝居はとても長く、終了予定時刻は10時過ぎになります。でも、帰りの電車の時間に間に合わないからといって、途中退場はご遠慮ください」
このあたりで、ざわめきがさらに大きくなる。
「長い芝居ですので、途中幕間があります。そのとき、舞台下の本物のオケピが気になり、見に行かれる方が多いようですが、見たら素早くお戻りください。後半が始まって、そこにいられますと他のお客様のご迷惑になりますので。以上三点の注意をお守りいただき、最後までこの芝居を楽しんでください。三谷幸喜でした」
ここで観客は、三谷幸喜がどこかで実際にアナウンスしていることに
ようやく気づき、笑い声が漏れ、みんなの視線が上のほうに集中する。
そこで、上演開始を知らせるブザー音。
もういきなり「つかみはOK」の世界。で、内容は最初に書いたとおり。
オケピのメンバー全員が、何かしらの心の傷を背負っている。
付き合っているという自由奔放な娘役。
この歌がなかなか泣かせる。
とにかく、笑って、泣いて、また笑って、しみじみして、
笑って、ほろりとして、また笑っての繰り返し。
最後はスタンディングオベーションが止まらず、
カーテンコールが4回もあったような。
そのおかげで夜6時半開演のこの芝居。
劇場を出る時は10時過ぎどころか、11時近かった記憶があります。
ミュージカルの醍醐味を思う存分味あわせてくれるお芝居でした。
もう二度とないだろうけれど、たとえ役者が変わっても、
また上演されることが決まったら、這ってでも見に行きたい!!
私にとっては“生涯NO1のミュージカル”というか芝居でした。
2000年版は第45回岸田國士戯曲賞を受賞。
S席は8000円くらいだった記憶がありますが、
見終わった後は、それが高かったとは思わないはずです。
でもチケットを取るのが、また大変だろうな、おそらく。
上演されることを切に望みます。
暇なときにでも、三谷幸喜氏に手紙を書いてみたいと思います。