『学生たちの道』───昔読んで感動した少女漫画

これまた台中の話からはかけ離れて恐縮ですが、昭和48年卒の台中生なら、
この漫画を読んだことがある女性もいるのでは?


今、窓の外から風のビュービューという音が聞こえてきます。
さて、この深夜から朝にかけて東北地方は大丈夫なのでしょうか?
風速40メートルの嵐が訪れるかも? という真夜中にもかかわらず、
そんなことをものともせず、昔読んだ少女マンガのレビューなどを書いています。

手元にあるこの本は復刻版で、アマゾンで検索して手に入れました。
昔、高校時代に買ったはずの、おそらく集英社漫画文庫というやつが
どこかに消えてなくなってしまったせいで、
手元にあるのは(白泉社文庫─西谷祥子傑作選)という代物でした。

白泉社というのはどんな出版社なのかあまり知らないけれど、
こういった名作を復刊してくれるのはとてもありがたいことです。

西谷祥子さんの漫画が好きでした、むかし。
顔の四分の一ほどもあろうかという大きな瞳の少女が好きでした、むかし。
でも、あんな大きな瞳を持った女の子が実際にいたら、
とても気持ち悪いだろうなあと思っていました、むかし。
いや、これは今でも思うけれど。

この「学生たちの道」は、心がすさんだ時に読むと幸せの涙で癒されます。
 
西欧のブルジョアが通うスイスのハイスクール(かな?)セント・アザレア学園。
弁護士の父親も学んだというその学校に、
とてもきれいな顔立ちをした男の子が入学するところから物語は始まります。

かなり裕福な家の子でなければ入れませんが、有名な哲学の先生がいて、
その先生に憧れ、学生たちも様々な国からやってきます。

主人公アルバートの下宿生活が始まります。
その下宿の手伝いをしている美しい町娘ジョアンナがアルバートに好意を抱き、
アルバートは夢と希望に満ち溢れた学生生活を──と思いきや、いきなり事件勃発。

学校の規則を破ったとして学生牢に入れられるわ、
ジョアンナは変な男に付きまとわれるわ、
父親の友人の息子で兄貴分とも言うべきモーリスが
決闘で貴族の息子を殺してしまうわ、
さらには父親が急死したため学費が払えなくなり、
アルバートは学校を辞めて酒場で働くという展開。

夢一杯だった友人たちも、様々な困難に遭遇し、
みんなばらばらになり学生街を離れていきます。
でも、悩み、迷い、苦しみ、ある時は絶望の淵に追い込まれながらも、
どこかに希望を持ってみんな生き続ける。
様々なエピソードを交えながら展開される青春群像劇。

アルバートと同じ下宿に住んでいた友人。
ドイツから来た、それほど裕福ではない「あばたのヨーゼフ」が、
貧しさ故に授かった知識を基にアルバートの美しい妹カロリーヌの命を救う場面。

「あなたは誰にもおとらない。尊敬します」と抱きかかえた彼女からキスを受ける。
「神さまがわしのために天使をひとり、とっておいてくださった」
とヨーゼフは涙を浮かべながら呟く。

泣けます。今読んでも感動の涙が頬を伝わり落ちます。
そして、最後には、みんな再び学生街へ帰ってくる。
自分たちの生きるべき、歩むべき“道”を見つけて。

もうあの頃のように若くはないけれど、
人生の荒波を乗り越え、一回りも二回りも大きな姿になって。

辻村深月の言葉を借りれば
「闇は深ければ深いほど、そこに射し込む光は柔らかく温かいはず」。

深い闇の中で、もがき苦しみ、でも挫けることなく
前向きに生きたことへの神様からのご褒美。
ラストに近づくに従って感動の涙を禁じ得ません。

人間は素晴らしい、
友情って素晴らしい、
夢を忘れずに生きていくことは素晴らしい。
素直な気持ちになって、純粋にそんな思いを抱かせてくれる青春物語。

単なる少女マンガではありません。
少女マンガ史上、おそらく初めて男性を主人公とした記念碑とも言うべき作品。
心揺さぶられるお薦めの一冊です。 
 (了)
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